港のσ
涅槃にとっては久々でもなんでもない外出であった。
ほとんど白と黒、それ以外は強いて言うならば灰色を使っている程度の私服である。
髪の長さのせいで一見すると女性のように見えるが、彼の身長があっさりとそれを否定している。
取り敢えずは下見である。
もうすぐ密輸の続報が届くはずだが、いまだに連絡は遅れている。
そういったことに少々の苛立ちを覚えつつも、涅槃は反面楽しんでいる部分もあった。
常日頃から浮かべている笑い顔は今日も健在であり、無愛想な様子は微塵もない。
運び屋が運んでくるといった話だが、万が一のこともある。
もし、万が一、そういった可能性はぎりぎりまで潰して回るべきだ。
船がやってくるらしい港を眺めていると、電話がかかってきた。
涅槃は異形の左手で電話をひっつかむ。
「はぁい……もしもしぃ、こちら涅槃……」
間延びした声は受話器の先の相手に名を名乗る。
くすくすと笑う涅槃は不気味だが、それを見る者はいない。
荒神博に人をすっかり持っていかれた港に佇むのは涅槃と、それから数人の人。
だが、数人は皆あくせくと何処かに流れていってしまう。
「……はぁい、了解ですよぉ」
電話を切り涅槃は港を後にする。
事前準備は念入りに。


続く
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