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嘘は相も変わらずに似たようなドアを開いては閉じ、開いては閉じして目的の部屋を探していた。
頭の弱い彼にとって、この広大な研究所内の構造を把握することは難しく、ましてやスパイ対策に複雑化された所内であれば尚更把握することは困難を極めるのだった。
体力はあるため、走ってもほとんど疲れることはないが、目的地になかなか到達しない苛立ちから気が滅入ってくる。
ふと、思い付いたように、嘘は電話をかける。
コール音が数回鳴り、繋がるが、返ってきた音は期待はずれのものだった。
機械的な古式の声が、留守か電源が入っていない旨を伝えてくる。
規定の留守電メッセージである。
なんとかして電話で道を尋ねようとしたのだが、その目標はあっさり砕かれたのであった。
かえってにこにこと笑いを浮かべてしまう辺りがあまのじゃくだ。
苛立ちはほとんど頂点に達しているのだが、不思議と表面は穏やかな水面のようであった。
生来の性質だからこそ、本人にとって現在の状況は普通のことなのだが、外から見れば奇妙なことこの上ない。
嘘は笑いながら、半ばやけくそにドアを開いていく。
驚いた研究員が文句を言ったり、鍵がかかっていて開かないドアがあったりするが、お構い無しに、無差別にドアを開いていく。
そこに何であるかの判別はほとんどなく、ただ目的とする風景に合致するしないだけを判断していく。
効率化を極限まで追及した本人なりの方策だが、端から見れば只の迷子である。
ドアをめちゃくちゃに開けて行きながら、嘘は走る。
笑い声とぱたぱたという足音が嫌に耳についた。

続く
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