ようこそ不浄の地
憂は興味なさげに廊下を歩いていく。
ぺたんぺたんとスリッパが間の抜けた音を立てていく。
やる気なさげに長く伸びた黒髪が揺らぐ。
ぐらりと暗黒色の瞳が映すのは、何やら奇妙な白衣の一団である。
ぱちりと一度だけ瞬きをして、憂はズボンのベルトに固定したスプレー缶を軽く握る。
雪崩れ込んでくる白衣の人間のなかには見知った顔があるような気がしないでもないが、憂は特に気にせずに攻撃の体勢に入る。
監視カメラは一応付近に存在している。
古式が此方の行動を見ているかどうかは定かではないが、ログさえ残っていれば自分の功績は残る。
功績が残っていれば他の兄弟よりは称えられるだろうか。
そんなことをごちゃごちゃと考えている間に人混みが近づいてくる。
ガスマスクを適当に被り、スプレー缶の中の液体を散布する。
人体に直接の影響はない、と涅槃は言っていたが果たしてどうだか。
数人にかかるが、表情が苦痛に歪み、涙がこぼれ出す。
催涙スプレーの効果自体はそこそこにあるらしい。
問題は、人数がとにかく多く、憂一人で捌くのは都合が悪いことだけである。
「ああ、めんどくさい」
ぼそぼそと呟いた声はガスマスクの中で反響する。
ながったらしい髪をざらりと払い、憂は害虫の駆除でもするかのように味方であった人々に液体を散布していた。

続く
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