言語齟齬
楽は雑巾を探していた。
この緊急事態に何を、と自分でも思う。
しかし、意外とこういった日用品は見当たらないもので、資材室をあさっても布のようなものはほとんど無い。
実験室まで行くとなるとひどく遠ざかる上、先ほど防火扉を閉じた場所を通らないとさらに時間がかかる。
自分の功績を自分で台無しにするわけにはいかない。
「うーん、雑巾雑巾」
口のなかで復唱するが、なんだか情けない。
先ほど他の研究員に連絡を頼んだが、信用はならない。
ぱたぱたとスリッパで音を立てながら走っていく。
楽は扉が開いたままの室内を見る。
見ればタオルがおいてある。
誰のタオルだか知らないが、こんな時だ。
使ってしまっても文句は言われないだろう。
楽は持ち前の楽観視をもってして、タオルをつかんだ。
近くにメモ帳がおいてあるのを見つけ、これ幸いと楽はメモを残す。
「ん、あ?なんだこれ」
メモを開くと、中には見たことのない字が並んでいる。
いや、見たことがある。
確かトメニアの言語だろうか。
楽はメモをぱらぱらとめくる。
次第に字が乱れていくあたり、焦って書いていたのだろう。
しかし、読めないので楽はそれを無視する。
メモのはしっこに、タオルお借りしてます。と小さく書き記して、楽はタオルを無事に入手した。
先ほどの場所に戻るべく、楽は再びぺたぺたと歩いていった。

続く
prev nextbkm
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -