これはこれで落書き
「あースランプかなこれ」
サンドイッチに絵の具をかけながら、荒神第一は呟いた。
既に食事は終えており、とても食べる気にはなれなかったのが一因であると思われる。
絵の具は赤く、血でもぶちまけたかのようにサンドイッチが赤くなっていく。
それを気にした様子もなく、第一は赤くなったサンドイッチをひっつかみ、まだ白いキャンパスに押し付けた。
サンドイッチの中身が少し手につき、不愉快そうに顔を歪めた。
近くにあった布巾で手を適当に拭って、サンドイッチは用済みとでも言いたげに先程までサンドイッチを置いていた折り詰めに放り込んだ。
「正直つまんないんだよねぇ、頼まれて絵描くのってさぁ」
依頼品の絵をぐちゃぐちゃに塗りつぶしながら、第一はぼそぼそと言う。
この極彩色の絵はどこぞの富豪に売り飛ばして絵の具代の糧にすると決めてある。
第一にとって役割を既に決めてある物を描くのは心底つまらないらしく、昨日描きはじめてから少しも進んでいないのだ。
「つまんないなぁ。誰かが描いてくれればいいのになぁ」
サンドイッチの入っていた折り詰めからトマトを取り出し、今度は青の絵の具にどぷりと浸けた。
キャンパスを倒して、その上にトマトを転がすと、トマトはあらぬ軌跡を描いて床に落ちた。
床に落ちたトマトを拾い上げ、今度もそれを折り詰めに戻した。
折り詰めの中は絵の具同士が混ざり、奇妙な色彩を呈していた。
「ははっ、美味しそうじゃない?こっちもおまけでプレゼントしちゃおっか?キミも賛成だろう?」
折り詰めを雑な手つきで閉じて、第一はへらへらと笑う。
会話をしているような口ぶりだが、部屋には彼以外誰も居ない。
「まあそりゃそうだよねぇ。そろそろ画面も埋まってきたし、遊んでもいいよね」
独り言を言いながら、下ろしたキャンパスを立て直す。
キャンパスはさきほどまでは無秩序に赤かっただけだが、引っくり返すと、何となく意味をもった形をしているようにみえた。
それは人の顔だった。
かすかにみてとれる表情は眠っているように安らかだが、口は無く、目は死んでいた。
絵を放置して、汚れないようにつけていたエプロンを脱いで、第一は部屋から出ていった。

終わり
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