目が覚めた。
今日は日曜日だ。
外を眺めるとまだ薄暗く、古いガラス窓から見る景色は少し青みがかっていた。
時計を見ると六時の少し前だった。
普段ならば二度寝するところだが、今日はそんな気分にはなれなかった。
顔を適当に洗い、ヤカンに水を入れ、湯を沸かし始めた。
特に何の変鉄も無い朝、しかし先日失った片目は生活に多少の支障をもたらしていた。
片方あるだけまだマシだが、それまで両方あったものが無いというのは気持ちの良いものではなかった。
無い右目を気にしつつ、一本松十字は調味料をかけた飯にお湯をかけた。
味気ない茶漬けを適当に食べ、今日の新聞を確認することにした。
紙面を埋める目立ったニュースは大抵が荒川デモの事であり、十字にとってはあまり興味の無い話題だった。
他には無いのかとページをめくると、小説のコーナーが目についた。
そこそこ長く続いているコーナーのようだが、今まで特に気に止めたことも無かった。
しかし、今日だけは何故かそれが気になり、十字はじっと文字の羅列を眺めた。
元々文字を読むのは早かったのですぐに読み終わった。
途中から読んだせいで何のことやら全く頭には入って来なかった。
何故この文章が気になったのか、ふと作者名に目を向けると、見覚えのある名前だった。
「天宮神楽……」
古い記憶に確かにある。
誰かをそう呼んだことがあるような気がする。
しかし、それを呼んだのは自分では無い誰かだ。
「あー思い出したぞ」
天宮神楽はペンネームだ。本名は中司祈導。確か自分の弟だったような気がする。
十字はなんとなく、新聞社の係宛に伝票を出した。
することの無い日曜日、少しだけ何か思い出した。
続く