インディスポーズ
事実、そこは夢の中だった。
はいじま涅槃は研究室で研究などしておらず、パソコンとのオセロ対戦にあと一手で勝利するその直前に眠ってしまっていた。
荒神古式は書類に目を通すべく、ちらりと紙を開いたところでがっくりと機能停止した機械のように項垂れていた。
しかし、二人はそのことを実感していないし、周囲の人間もそれに気付いて肩を揺すったりすることはなかった。
なぜなら、西京都に居る人々のほとんど全員が深い眠りについていたからだ。

春夏冬時朗は高校生程度の年頃にありがちなついつい夜更かしをしてしまうような状況にあった。
一瞬眠りについてしまうような気がしたが、眼鏡をまだかけていることに気が付き、あわてて目を覚ましたのだった。
しかし、周囲を見渡せば、人は皆やりかけの作業をぱったりとやめて眠りこけている。
不安になった時朗は周囲の人々のやりかけの作業を一点一点確認して回ることにした。
まさか料理をしながら眠りこけるようなことや、危険なドラフト内での作業中に眠りこけるようなことはないだろうが、この異様な光景を見るからに、そのまさかがあり得ることもある。
案の定、液体を混ぜようとしている女は眠りこけていたし、料理をしようとして火を付けていた場所もあった。
時朗はそれらを一つ一つ止めて回り、多くの命を救ってやった。
途中、よく話しかけにくる騒々しい友人も眠りこけていたので毛布をかけてやったりと、人に対する配慮も忘れなかった。
時朗は近くで書類を見たまま眠りにつく極彩色の女を見て、小さく呟いた。
「何を見ているんだろうなぁ」

「…………」
荒神古式は外の風景を見ていた。
起きてから見たときとほとんど変わらないが、やはり記憶に無いものが多々存在する。
窓から見える風景からして、今居る場所はおそらく皇居と同じ座標であると思われる。
先ほど涅槃に話しかけたが、思考するのをやめろとでも言いたげなことを言われてしまった。
古式は過去にあったことは記憶の片隅に置き取り敢えず今の状況を纏めることにした。

続く
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