したうち
非常階段は幸いあまり人が居ない。
目先のエレベーターに目がいって人気が無かったらしい。
螺旋状の階段を四段飛ばしにして踊り場でくるりと回る。
あまり下に向かっているという実感は無いが、所々にある数字の表記が階数を着実に減らしていることから、下に向かっているのは間違いない。
「ん!」
目の前に誰か居る。
狭い階段で目の前に人が居るのは厄介なので、蹴り倒して先に向かうことにする。
「おっと」
くるりと目の前の人物は身を翻し、蹴りを避ける。
「やるじゃない?」
そう言いつつ、ひとこは追い越し、階段を下る。
走る毎に足についている鎖がジャリジャリと嫌な音を立て、更に非常階段の床を叩いてけたたましい音を奏でる。
「ふむ、後続がありそうだな」
男はぼそぼそと呟き、走りだす。
「お嬢さーん!良ければ一緒しないかい!」
声が反響する。
既に二階分ほど降りていたひとこは一瞬振りかえるが、無言で更に下を目指す。
「フラれちゃったか」
階段と鎖のぶつかる狂暴な音を聞きながら、黒牙の山道優は呟いた。

ひとこは疲れる様子も無くひたすら下に降りていく。
踊り場に差し掛かった瞬間、蛍光灯が嫌な音を立てる。
ぶつんと明かりが消え失せ、辺りは暗闇に包まれる。
「停電、か」
さすがに目が慣れない状態で階段を下るのは得策ではない。
ひとこは立ち止まり、周囲の状況を観察する。
情報収集に長ける薮田を上階に置いてきたのは失敗だったかもしれない。
ひとこは小さく舌打ちし、燐光を放つ階数表記に手を触れた。

続く
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