流動
周囲が騒々しい。
口のなかに残る肉片を咀嚼し、飲み込む。
もはや味を感じないが、何かにとりつかれたように食い続ける。
周囲が何か言っているらしいことが認識できる。
今まではただの騒音だった声たちが今、意味を持って語りかけてくる。
骨を噛み砕き、飲み込む。
今度は何だか砂のような味がした。
「俺は」
小さく呟く。
精神的にとても落ち着いている。
回りのことがよく理解できて、今までの自分ではないような感覚がある。
口許に垂れる血を拭い取る。
握りしめた包丁からはぱたぱたと血が滴っている。
包丁を一振りし、絡み付く血液を払い落とす。
「あー……」
いつもと同じ声も普段とは違って聞こえる。
今まで見ていた世界はとても狭くて小さかったようだ。
今までよりも聡明になった頭で三月は考える。
足元にはほとんど原型の残っていない人型が転がっている。
持ちにくい包丁の柄には形見の包帯を巻き付けた。
数回振るってみてから、もう一度握りしめる。
感触は今までと変わらない。
ただ、三月は今この瞬間から確かに変わった。
「おれは、今日から人間だ」
自意識を持った三月はにこりと笑った。

つづく
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