溶けるサイクロイド
涅槃は鷹廣の言葉を脳内で反芻しながらてくてくと歩いていく。
これまでこれといってめずらしい相手に遭遇するようなことはなかった。
歩いている途中に警備ロボットとすれ違ったり、憂がなにやら歩いていくのを横目に見た程度だろうか。
自分はこの研究機関の機密部分まで知っているとは言いがたい為当たり前なのだが、改めていろいろな場所を歩いてみると発見が多い。
「まぁ……愚生には関係ないんですけどねぇ……」
参考までに、と保管された資料を覗きながら涅槃はぼそぼそと呟く。
先ほど言われたように暇なのは自分でも実感できる。
まとめ方がへたくそなのか、資料の一部は読みにくいことこの上ない。
五枚ほどの資料を読み終えたところで、涅槃は棚に資料を戻す。
ポケットから懐中電話を取りだし、ダイヤルを回す。
左右が反転した手で器用にダイヤルを回しきると、涅槃はぼそぼそと相手に語り出す。
「目的のもの持ってこれてますぅ……?……そうですかぁ……裏口は無事ですのでそちらからどうぞぉ……」
間延びした独特の口調で確認を取る。
電話相手は元気な声で応答する。
涅槃は頷いてからさらに続ける。
「悟にも伝えておいてくださいなぁ……えへへ……」
怪しげな笑いを浮かべてから、涅槃は電話を切った。
新しい目的ができた。
意気揚々として涅槃はまた歩き出す。

続く
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