二人の同一人物
楽はタオルを握りしめて走っていた。
しかし、先ほどの場所はさわぎになっており、ほとんど近づけない。
個人主義の人間が多いここでは珍しいことだ。
楽はやろうとしたことが出来ず、ため息をつく。
どうにも運が悪い。
周囲に居た女にタオルを押し付けて、楽は今度は電気棒をひっつかむ。
掃除が出来ないのならば別の掃除をするまでだ。
楽はスリッパをぺたぺたいわせながら走った。
スリッパは足に引っ付いたようになって、少し動きを邪魔するが、これといって大きな問題ではない。
廊下は白いが、所々に汚れが付着している。
今回の騒動はさまざまな爪痕を残しているらしかった。
侵入者の駆逐をするのであれば、電気棒の充電は必須だろう。
楽はそう思い至り、先ほどは避けて通った道を歩みだす。
道は、前まで扉が開け放たれていたというのに、そのほとんどが閉じている。
奇怪に思いつつも、慎重に走っていく。
楽はきょろきょろと周囲を散策する。
目に入ったのは、過去に見たことのある黒服の女である。
前はその容姿を細かく確認することはできなかったが、どうやら修道女らしい。
あんな口の悪い修道女が居てたまるか。
そう小さく吐き捨て、楽は走っていく。
小さく見えた嘘の姿がより細かく目に写る。
木製の棒で応戦しているらしいが、戦力差がややある。
幸い女はあまりこちらに注意を向けていない。
楽は、強く電気棒を握りしめ、女に向かって振るう。
とっさのことに反応が遅れた女は腕でそれを受け止める。
一瞬硬直し、すぐさま蹴りが飛んでくる。
同じ方向に飛んで、ダメージを減らすが、少し痛い。
楽は起き上がりながら女の方を向いた。
女は戸惑いぎみに言葉を口にする。
「え?同じやつが二人?聞いてねえぞ」

続く
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