目玉を喰われる話
「ねえ十字さん……っ、僕のこと、ずっと見ててくれる?」
少しばかり上擦った声で一子はそう語る。
息が少し乱れているが、そこまで苦しそうでも良さそうでもないのは自分が下手だからか。
彼女とは何度か体を重ねたが、相性が悪いのか自分が下手なのかあまりうまくはいっていない。
「……その言葉の真意はわからんが、見ててやるよ」
付き合い初めて既に1年がたつ。
彼女の言葉に含まれる内容の半分以上は理解できないものだが、何となく伝わる言葉も増えてきた。
「ありがとう……愛してる」
灰緑色の前髪がさらりとかき分けられ、頬に唇が触れる。
頬に触れる感触は徐々に上に上がり、咄嗟に閉じた右の目蓋に触れる。
「一子?」
何が起きるのかよくわからず、疑問を投げ掛ける。
なんだか落ち着かない。
ゆっくりと目蓋の上を舌がなぞっていく。
普段空気以外が触れることのない場所を通り抜ける感触に少し肩が跳ねる。
「おい一子やめ」
声を発した瞬間、舌が目蓋を割り裂いた。
熱い。
焼けるような熱さから逃れようと、一子の顔をつかむが、押さえつけられる。
「っ、ぁぐ……っ」
眼球を押される嫌な感触。
濁った視界に広がる赤。
目蓋を閉じようとしても舌が邪魔をしてそれをさせてくれない。
「やめ」
舌がようやく離れたと思えば、指が目蓋の縁を押さえる。
無理やり開かれた目が痛い。
指先がゆっくりと眼窩の縁をなぞり、目玉を押し出そうと強く力を込められる。
「がっ、ぁ、いち、こ……」
焼ききれるような痛みを伴って、指が眼球に触れる。
ゆっくりと眼窩に入り込み、目玉をえぐり出す。
ずるりと血の糸を引いて、眼球が落ちる。
明灰色の瞳が血にまみれて一子の掌にある。
一子は目玉を口に入れ、呑み込んだ。
痛みで思考が麻痺している。
何が起きるのかわからない。
「ねえ、十字さん、」
一子の顔が近くに迫る。
それだけのことなのに恐怖で体がすくむ。
「愛してる」

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