一喜一憂珍道中
「よ」
飛び降りた先に広がる風景に目を細める。
やはり視界を埋め尽くすぎらついた光がうっとうしい。
過去の相方は片目を包帯で隠していたが、あれはこのぎらつきから目を守るためだったのかと妙に納得する。
完全に自我を得るまではここまで明瞭な感覚を得ることはできなかった。
視界の先に何者かが立っている。
ゆらゆらと揺れる影は人間であるようには見えない。
ずれたエプロンを肩にかけ直して、近付いていく。
挙動が少しおかしいように見えるが、ちゃんと人間だった。
狐に摘ままれたような感覚が気持ち悪い。
「……お前だれ」
とりあえず疑問をぶつける。
「俺は紅灯の壺屋アキナ、自分から名乗るのが普通じゃん?」
「そうなの。おれ、空谷三月」
あっさりと自己紹介が終わり、微妙な空気が流れる。
先ほど見た時は動きに不自然なものがあったように見えたが、今はそのような雰囲気は微塵もない。
「お前ちょっと変」
「そっくりそのままアンタに返すよ」
「……?意味わかんない」
数秒考えて意味はわかったが、自分が変であるという実感は沸かない。
何が変?何がおかしい?
「まあせいぜい生きて地上までおいでよ。俺は死ぬつもりないしさ」
「……そっか」
とぼとぼと歩き出す。
彼は一緒に来そうにない。
だれかと一緒に地上に行きたい気持ちはあるが、無理矢理ついていかせるのもあまり好きではない。
「またね。ばいばい」
廊下を走り抜け、三月はまた独りになる。

続く
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