ノスタルジアステーション
百千十五はやや困惑していた。
主にそれは40センチ近い身長差によるのだが、相手はその困惑を異世界への不安と認識したようだった。
「少し、話を聞いてくれるかな?」
身長にそぐわない穏やかな声にうなずいて、十五は駅員の男についていった。
駅構内は以前に見た東京駅とさほどかわりはない。
強いて言うならば、ややノスタルジックな雰囲気と、昭和のような少々古ぼけたデザインのタイル等が違うところだろうか。
詳細に周囲を見回していて、駅員を見失いかけるが、彼は身長が高く、嫌でも目につく。
中学生にしては小柄な十五の視界からすれば彼の頭は遥かに上なので、顔はあまりしっかり見れてはいないが、語調から少し陰鬱な雰囲気を感じ取った。
ワンショルダーバックを背負い直し、駅員の後を追いかけると、唐突に駅員は足を止め、職員室の扉を開けた。
「どーもっす」
くだけた敬語の残骸のようなものが残る口調でそう言い、十五は職員室に入った。
作りは非常に質素で、必要最低限のものしか置いていないように見える。
突っ立っていると、座るよう指示された為、椅子に腰かけた。
「で、話ってなんすか?」
目付きが悪く、生気の無い目で駅員を観察しながら、十五はぼそぼそと尋ねる。
抑揚の無い声は他人に向けて言われたというよりも、自分宛の独り言のようである。
「単刀直入に聞くよ。君は、こっちの世界の人間じゃないね?」
「そうっす」
めんどくさげに、適当に答えた。
駅員はさしておどろいた様子もなく、淡々と質問をぶつけてくる。
「帰りたい、よね……?」
「……いや、こっちには自分で来たんす。俺はゲームさえ出来ればなんともないっすよ」
「……そう」
会話が唐突に途切れる。
脳内で○×ゲームを一人でやりながら、少し姿勢を変えた。
「んー、もういいっすか?俺ちょっと調べたいことあるんすけど」
「ちょっと待って、気をつけて欲しいことがあるんだ」
抑揚のない男の声に微妙な表情を浮かべ、立ち上がりかけた十五はもう一度座る。
「気を付けることっすか」
不機嫌そうに高い位置にある男の顔を見やる。
「こっちの世界には、そっちの世界について調べてる組織がある。その組織に捕まると死ぬかもしれない。研究所と、特別高等警察、この二つには気をつけてね」
「わかったっす」
至極つまらなさげに言い放つと、十五は職員室を去った。
どちらかというと無感動な方だが、内心は非現実的な出来事に感動していた。
見覚えの少ししかない街へ歩き出す足取りは不思議と軽かった。


続く。
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bkm
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