貫通する茜色の街路
駅から出ると空気はすっかり様変わりしていた。
夏の暑さが少し消え始めた夕暮れ時、空は見たこともない赤橙色に染め上げられている。
ちょうど化学の教科書にでも載っていそうだ、そんな下らないことを考え、百千十五はぼんやりと空を眺めた。
目の前の背の高い男は先ほどきさらぎ電鉄と名乗った。
平均身長以下の自分では顔はよく見えないが、誰かを探しているように見受けられた。
「おいで、こっちだよ」
手を軽く引かれて連れだって歩いていく。
子供扱いされている感じが否めないが、自分はどこからどう見ても子供である。
「なんすか?まだ何かあるんすかね」
ぼそぼそと口の中で呟く。
返答は期待していない。
「研究所や特高、そういった組織から隠れる為の住居と仕事を斡旋してる人が居るんだ。ちょっとそこまでの足を……あっ、来たよ」
指差す方角に目をやる。
ぐるん、と視界が急に巡り、その先には見覚えのない会社のタクシーが停まっていた。
目、だろうか、タクシーのロゴに着目していると、車のドアが開く。
今時手動なのかと感慨に浸る暇もなく怒号が飛び出した。
「きさらぎィ!!またか!!」
タクシーから出てきた男もまた背が高い。
東京ではついぞ見かけないほどに典型的なタクシードライバー然とした男である。
しかし、その外見にそぐわない発言に少し動揺しつつも様子を見る。
「すまないが今回もよろしく頼む。今度何か埋め合わせをする」
「無賃でこき使われる身にもなってみろ!毎回毎回」
しばらく口論は続きそうだ。
呆けたように周囲の景色を眺める。
二人の男の口論が背景音楽のように遠ざかっていくようだ。
ポケットから財布を取り出し、中身を見る。
数千円は入ってるだろうか、札とレシートが混ざりすぎてよくわからない。
「これって使えるっすか?」
差し出したのは東京では一般的な千円札だ。
しかし、二人の怪訝な表情を見るに、おそらくこれは使えないのだろう。
「やっぱいいっす」
適当に千円札をポケットに捩じ込み、また目をそらす。
「お、おうそうか」
怒りも沈静化したのか、タクシーの運転手はどことなく落ち着きなさげにきょろきょろとする。
ちらりと見えた顔はなんだか光の反射がやけに強かったような気がする。
「じゃあ頼んだよ、伊佐貫。いつも通りに」
「あいよー」
車に乗り込んでから扉が閉まる。
どこに連れて行かれるのだろうかと言う不安はあるが、好奇心の方が勝る。
車が発車する。
鉄の塊はまるで質量がないかのように障害物をすり抜けていく。
外の風景を眺めていると、万華鏡のように道路ではない景色がぐるぐると去っていく。
不思議な景色に見いっているうちに到着したらしい。
ドアが空いて、外に出たとたんそれまで乗っていた車はあっという間に居なくなっていた。

続く
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