雑多に積み上げられた建物はパズルゲームを彷彿とさせ、百千十五は少し足取りも軽く荒川城砦を歩いていた。
斡旋業の男への紹介は貰っている。
後は話を聞くだけである。
「ここでいいんすかね」
案内人は特に居ない為確証は取れない。
取り敢えず立ち入ったそれらしい建物もまた雑多であった。
「へえ、東京からきよったと」
にこにこと微笑む男は先ほど物集女千豊と名乗った。
灰緑とでも形容するのだろう色褪せ気味の髪と、落ち着いた色合いでありながらも装飾の細かい着物が目立つ。
「そっす。東京駅から自前の切符で」
証拠品とばかりに掲げるのは東京の紙幣である。
やる気のなさげな声はこれからされる話に興味がないように響く。
「早速やけど、ここでの暮らしについて聞きたいこととかあるん?」
「チュートリアルっすか。俺こういうのすっ飛ばしてプレイする派なんすけど」
尋ねられた話題に斜めの返答を返しつつ、十五は座り込む。
口とは反対の行動をしつつ、手の仕草で続けるように示す。
少々面食らいながらも千豊はいつも言うように言葉を続ける。
「ないならそれに越したことはないんやけどね。東京には帰れへんよ、わかっとるよね?」
念を推すように千豊が問う。
つまらなさげに服の裾を摘まんでいた十五はぼんやりとした口調で語る。
「知っててこっち来たんすよ俺。今のシチュエーションもゲームっぽくて楽しいし、帰る気なんてねえんすよ」
「はあ、そうかい。変わっとるね」
そこから先はほとんど他愛のない会話ばかりであった。
家はどうするのか、仕事は、学校は、そういったことを決めているうちに外はすっかり暗くなっていた。
まだそれほど此方に慣れていないせいか、十五は情報過多で脳が少し混乱しているのを感じた。
ぽつぽつと灯る街灯は提灯がいくつもぶら下がっているようで、ここが東京ではないことを明確に差別化する。
千豊に指示された家を探しあてると、十五はにやりと笑った。
六畳一間の特に何もない空虚な部屋。
鞄をおろして座ると何だか世界の全てを牛耳ったような不思議な心地がするのだった。
特に何もない、万能の部屋を手に入れた十五は間違いなく貴族であった。
続く。