森を抜ければ暁
狭い室内には家具がなく、窓は小さく監獄のようである。
自宅から鞄ごと持ってきたパソコンが一台あるが、ネットワークには接続されておらず、出来ることといえば内蔵されているミニゲームくらいだった。
コンセントとプラグが噛み合うかどうかが最大の心配だったが、問題なく使えるようで、今も携帯ゲーム機の充電に駆り出されている。
部屋の畳は所々痛んでいて、ここが安物件であることを明確にしている。
広さもそれほどでもないが、小柄な十五が寝るには広さは十分であり、問題はない。
「今日も何もねえや」
ぼんやりと天井を眺めながら呟く。
天井には染みが無遠慮に陣取りをしており、天井の面積のほとんどが染みで占められている。
雨漏りの心配はないらしいが、この染みの酷さなら天井の老朽化もかなりのものだろう。
いずれ修理しなければと考えるが、天井まで届く台を買わなくてはいけない煩わしさが嫌だ。
寝そべった状態から勢いをつけて起き上がる。
勢い余って手を床についた。
鞄を適当に手にとって、百千十五は玄関を後にした。

「ねっみい」
ぼそぼそと呟きながら路地を歩く。
きさらぎからは以前に病院に行って見るように薦められたが、面倒でいまだに行っていないことをぼんやりと思い出した。
「あー……どこだっけ病院」
聞いたような気がするが、あまり興味がなかったせいでおぼろげにしか記憶を引き出せない。
興味のないことにはとことん興味のない自分の頭を呪いながら十五はごちゃついた交差点を曲がる。
最近ここらのゲームセンターの存在を知ったが、こちらの金は持っていないので通いつめてはいない。
時々ふらりと寄りたくなるのだが、金銭の問題は大きい。
いや、それよりまずは病院である。
「行けばわかるっすよね。うんうん」
一人言を呟きながらめちゃくちゃに積み重ねられた城砦の建物を潜り抜けていく。
鬱蒼とした灰色の砦を抜けると赤い空が見えた。
此処はやはり東京ではない。
十五は新しい玩具を見つけたような気持ちで城砦から街へ降りていった。

続く
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bkm
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