記憶にない話
ここまで何があったのか記憶がない。
何かに苛立って、頭が真っ白になって、気が付いた時には顔に痣が出来た弟が居た。
「あれ……?」
首を傾げて疑問符を浮かべるが、それまでの記憶は帰ってこない。
訳がわからないまま、青年が首に下げた紐を引く、紐の先には自分の左手についている指輪と同じものがついている。
首元の紐を引かれたせいか青年は微かに呻き声を上げた。
目隠しの外れた、盲目の目には少しばかり怯えが見てとれる気がする。
「ね、透くん、ボク何かしたかな?」
本気で記憶に何もなく、優しく問いかけた。
「何って、さっき、俺のこと殴ってきたやん……!」
「え?」
よくわからないことを言う弟だと感じた。
笑顔のまま、表情を固まらせて、小首をかしげる。
そして、優しく弟の頬に手を添えた。
「ボクがそんなことするわけがないよ。当たり前だろう?だって、ボクたち兄弟じゃないか」
それから弟が何と言ったのかはよく覚えていない。

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