床を這う
一子の時から彼のことは知っているが、まさか未だに治っていなかったのかと嘆息を漏らす。
「やめてくれないかな……無くん」
捕まれた手を振り払い、少し距離をとろうとしつつ、独り言のように言う。
昔にもこんな事があったように思うが、そのあたりについてはあまりよく覚えていない。
そもそも懐古に浸っている場合ではない、このままでは食われる。
「逃げるな、じっとしてろ」
背後から強く押され、バランスを崩して床に肘をついた。
平均的な体力の自分では押さえ込まれれば勝ち目はない。
舌と思しき物がぬめりと首筋を撫で、甲高い声が口から漏れた。
声を抑えようと唇を噛んだが、慣れない感覚に反応してか、小さく声が出ることを抑えられない。
「やめろ、やめろって」
普段の口調が壊れるのも気にせず、抗議の声をあげる。
這うようにして逃げ出そうともがくが、抵抗も虚しくされるがままになる。
耳元で鳴り響く水音が、舐められているという事実を実感させる。
ざらつく舌の感触に不快感を覚えつつ、何とか首をよじって睨み付けた。


おわり
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