空論の立証方程式
「それで、俺戻って来たっす。方法は此処にまとめてるっす」
百千十五は淡々と文字の書かれた紙を示した。
駅員室には現在四人。鮫島愁太郎、きさらぎ電鉄、緋門解良、そして百千十五で全員だ。
全員が神妙な顔で、少年の示した書類を見つめている。
何とも奇妙な光景だが、ここに数年間の解が集約されているのだ。
解良は興味津々といった様子で見入り、電鉄は半ば感慨深く、愁太郎に至っては表情は読めないが、音声は驚いたような様子だ。
更にその手法は東京から来た十五が先程実行して戻って来た。
確定である、これで東京から迷い混んだ人間を元の場所に戻すことができる。
これで帰る方法はないなんて言わなくてすむのだ。
「やりましたネ!きさらぎ!鮫島!」
「ああ、これで、これで、やっと」
「この手法は研究所からは隠さないとね」
皆が口々に喜びあうなか、ふと、十五は何か奇妙な音を聞いた。
扉が軋むような、水晶を弾いたような奇妙な音だった。
「なんか聞こえなかったっすか?」
疑問を示した途端、扉が跡形もなく消えた。
魔法か何かでも使ったかのように扉はかき消え、そこにはなんだか陰鬱な空気を漂わせた駅員が立っていた。
しかしどこか様子がおかしい。
四人は先程の雰囲気とはうってかわって緊張した様子で突然の来客を睨み付ける。
客人はにこりと笑い、左手を口元に当てた。
左手、なのだが上に掲げた腕は右側である。
「……くすくすくす……研究所がなんでしたっけぇ……?」
笑いながら男は呟く。
相手に質問しているというよりは、自問自答をしているかのような様子で、不自然である。
「はいじま……何を言っている……?」
電鉄は顔見知りであるらしく、名前を呼ぶ。
はいじまと呼ばれた男は尚も淡々と壊れたように言う。
「……ぜぇんぶ聞いてましたよぉ……愚生のこの耳も捨てたものじゃありませんねぇ……?くすくす……」
「聞いてたからなんなんすか……」
「わかりませんかぁ……残念ですぅ……愚生はぁ……独立法人永代特区研究機構NECTERの所員なんですぅ……」
その名前を聞いた途端場が一気に凍りつく。
今までの努力が全て水泡に帰すというのか。
「……おやぁ……気づいてなかったんですかぁ……?皆さんはぁ、愚生の正体など見破ってるかと思いましたぁ……心外ですぅ……」
淡々と語るはいじまは更に続ける。
「緋門先生もいらっしゃいましたのにぃ……天才も案外たいしたことはないのですねぇ……ふふふ、お勉強になりましたよぉ……」
はいじまはそれだけ言い残すと、いつの間にか居なくなっていた。
今となってはどこまで知られているのか、どこまで見られたのかわからないが、東京への切符を敵に渡すこととなってしまった。
陰鬱な空気を纏わせる駅員室はいつもよりも異様だった。
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