記念日に贈る
後に荒神第一傑作のひとつとして数えられる一枚の絵が荒神本邸に飾られたのはその日だった。
極彩色で描かれた絵は何を描いているのかは断片的にしか読み取れず、不調和であるようで調和していた。
額縁まで自作したようで、変形型のキャンバスは飾るのにも一苦労であったそうだ。
「タイトルはなんなん?」
目の悪い透が尋ねれば第一は嬉々として答える。
「家族だよ。ボク達荒神一族にぴったりだと思ってさ」
ふうん、といって見上げる透の目には極彩色のよくわからないものが映る。
光の色の違い程度しか最近は見分けがつかなくなっているが、少し見ただけでもこの絵が目に優しい色彩でないことはわかった。
「後で雷蔵くんにも説明するんだ。この絵のテーマだったりをさ!」
にこにことして語る画家を眺めるが、ほとんど感覚を共有できないせいか、全く楽しくない。
そんな事を考えつつ、透は去っていった。

「それでねえ、この絵の最大のテーマは調和なんだ」
「ふむ、そうなのか」
抽象画に造詣がある人間ですら甚だ理解しがたい自己解釈を当主に話す第一はさながら演説中のような様子であった。
絵の一部分だけではなく、美術知識など、様々な観点から自己の作品を宣伝する姿はまさに商売の為に絵を描く画家である。
「家族同士の調和だったり、そういったものをボクはこのキャンバスに描いたんだ。良かったらよく見てくれるといいな、今まで何も貢献してこなかったボクからの恩返しとでもおもってさ」
語られる絵は抽象的だが、何らかの意図が読み取れる。
それが何かは表現技法によって巧みに塗り隠され、よくわからなくなってしまっている。
「何はともあれ感謝する。第一、荒神の名に恥じぬ働きぶりだ」
「はは、光栄だよ」



絵の設計図のある工房に戻り、第一は笑っていた。
いつも以上に愉快だとでも言いたげに笑っていた。
「ひひひ、はは、ははははは!!!滑稽だなぁ、本当に……」
絵の設計図には調和、不調和といった文字と意味を為さない字が書き殴られている。
本人からしてみれば筋道がたっているだろう設計図を破り捨て、第一は椅子にもたれ掛かる。
「はぁ……まさかあんなに簡単に騙されるなんてなぁ……」
破り捨てた設計図をくずかごに投げ入れ、散らばった紙をそのままにしながら、更に語る。
「審美眼が無いなんて本当に可哀想だよ……ボクの本当の意図も読めてないなんて可哀想だなぁ……ははは」
設計図には家族の不和と書かれている。
先程語った内容とは真逆であり、こちらが本来のテーマであった。
「家族のこと誰よりも愛してるなんて言いながら何一つわかっちゃいない。あんなのじゃあいずれ破滅するよ」
立ち上がって踏みつけた紙は白紙だった。


おわり
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