落日の水面
がちゃんがちゃんと道具を床に落としていく。
普段はこんなことはしない。今日は少々機嫌が悪いだけなのだ。
机の上の物を全て落としてから、つまらなさげな目で床に落ちた物を見る。
それから、ゆっくりと地面のものを拾い上げた。
整理して置き直すといった様子ではなく、ただ適当に落とした物を上げているだけであり、机はまたぐちゃぐちゃになっていった。
いつも結んである髪を適当にほどいて、椅子の上で脱力した。
視力矯正の必要はないのにかけている眼鏡を乱雑に机に放り、未完成の絵をみやる。
未だに絵の表面は油分が固定されておらず、触ると絵の具が滲む状態であった。
手を出せない絵を見てから立ち上がると、何となく名前を呼ばれたような気がした。
くるりと振り返ると、薄紫の髪をした少年が此方を見ていた。
「どうしたの?透くん」
名前を呼ばれた青年はあっ、と小さく声を上げて、その場に立ち止まった。
近くまで歩みより、にこりと微笑んだ。
「昨日は突然ごめんね。ちょっと気分が悪くてさ」
頬に手を添えながら、子供に言い聞かせるように言う、昨日殴った痕が少しだけ赤くなっている。
顔に手を触れたせいか、少年から小さく悲鳴が上がるが、気にせずに続ける。
「ああ、腫れてるね。そんなに強く殴ったつもりはなかったんだけど。少し冷やすかい?」
逃げようとする相手の手を掴んで、強く引いた。
バランスを崩した透の身体を片足で支えて、立たせてやる。
それから、筆洗等が置いてある水道まで手を引いて連れていった。
水を出してから、頭を乱雑に水道のシンクに押し付けた。
シンクには絵の具が散った跡や、石鹸の跡が残り、お世辞にも清潔とは言えない。
ばしゃばしゃと水音が響くなか、笑い声が混じっていた。

おわり
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